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札幌医療事故問題研究会は医療事故を専門とする弁護士のグループです。

TEL. 011-209-3331

〒060-0042 札幌市中央区大通西9丁目1番地1
大通公園ビル4階 花形法律

活動報告REPORT


平成29年度第5回研修会
(平成29年8月29日)

1 研修の概要
 当該事件の概要、並びに医療過誤訴訟に関連する本件麻酔手技と事故発生の機序、過失についての検討がなされました。

2 当該事故の概要 
 全身麻酔には、麻酔科医が最も怖れるCVCI(Cannot ventilate Cannot intubate)という事故があります。全身麻酔が施行されると、患者は意識を喪失し、自然呼吸が停止するので人工呼吸を施すこととなります。このときの最も確実な人工呼吸は、気管チューブを気管内に挿入して気道(空気の通り道)を形成し、これを麻酔機に結合して患者の呼吸を確保するというものです。
 本件は、全身麻酔施行により患者の意識を喪失させるも、気管チューブ挿入がかなわず、患者が自発呼吸不可能状態にあって、挿管不可能、人工呼吸不能の事態が発生したCVCI症例でした。
 この場合の患者の最後の救済手段としては、時機に遅れることなく(低酸素脳症は、4〜5分で不可逆化する)外科的気道確保(輪状甲状膜又は気管穿刺・切開)が必要となりますが、本件ではこれに遅れ、患者の一命は取り留めたものの、不可逆的低酸素脳症によってこれを植物化したものです。


3 本研修の内容
 上記事故発生の原因と機序、過失を理解するための麻酔(全身麻酔、部分麻酔、両者の併合麻酔)の原理と各手技の解説が行われました。
 また、ミニトラック、ラリンジアマスク等、呼吸確保機材の解説も行われました。
 そして、本件に於ける過失の検討が行われました。
 一般に医療過誤訴訟では、通常の医療水準に達している施術か否かによって、過失の存否が検討されるべきです。しかし、裁判所の過失認定に関する一般的傾向は、当該医療行為に不注意(おなかにガーゼを忘れたなど)があったか否かという、古典的過失観念に偏っているように思われます。
 本件は「重度リュウマチによる頸椎変形を予測すべき」という、かなり大きな過失ファクターがありましたが、それでもなお裁判所は、過失認定に躊躇する印象を受けました。
 同種事案では、かなり粗末な麻酔手技でも、裁判では、不注意なし、過失なしという場面が予想されるので、主張・立証にそれなりの工夫が必要です。





平成29年度第4回研修会
(平成29年6月27日)

  平成29年6月27日午後6時より、札幌弁護士会会館において、医療過誤訴訟における法律構成に関する論文の検討をテーマとする研修会が行われました。

 医療過誤訴訟において医療機関の責任が認められるためには、学説において様々な議論がありますが、患者側で@医師の過失、A患者の生命・身体といった権利の侵害、B過失と権利侵害との因果関係、C損害、といった要件を主張・立証して、裁判所に認めてもらう必要があります。
 私たち研究会の会員も、訴訟等において、日々こういった要件の主張や立証を行っています。

 今回の研修では、裁判官が公刊した論文をもとに、改めて医療過誤訴訟においてどのように要件を主張していくべきか、法律論について議論を重ね、会員同士で法律知識や主張の仕方についての研鑽を行いました。





平成29年度第1回研修会
(平成29年2月28日)

 平成29年2月28日午後6時より、札幌弁護士会会館において、医療事故調査制度、美容医療等をテーマとする研修会が行われました。

 今後、例えば入院中の突然死の事例のような医療機関で起きた患者さんの死亡に関して、医療事故調査制度の利用が見込まれます。

 医療事故調査制度というのは、医療機関で患者が死亡する医療事故が発生した場合、医療事故調査・支援センターに報告し、その医療機関または同センターにおいて院内事故調査を行うという制度です。
 平成28年10月末時点までの累計で報告された医療事故報告件数は423件でした。概ね月30数件ペースとされています。

 医療事故調査制度の適用があった場合には、患者のご家族は医療機関から調査結果等が報告されるほか、調査結果が納得できない場合には、直接第三者機関への調査を求めることができるようになりました。

 他方で、死亡事故の全件が制度の対象になるものではないことや、調査の説明方法などにも問題があります。

 医療機関でご家族が亡くなられたという場合には、医療事故調査制度のご利用を検討されるとともに、問題点もある制度であるので、弁護士へのご相談もご検討ください。





平成28年度第7回研修会
(平成28年12月13日)

 平成28年12月13日午後6時より、札幌弁護士会会館において、医療事故調査制度等をテーマとした研修会が行われました。

 今回の研修は、発足して1年をむかえた医療事故調査制度についての研修でした。
 
 会員より医療事故調査制度に関する全国の実情や統計を紹介するとともに、現場の医師をお招きして、死因究明に関する実情や問題点について議論しました。





平成28年度全国一斉医療電話相談
(平成28年10月29日)

 平平成28年10月29日土曜日に、全国一斉医療電話相談が行われました。
 当研究会からは、7名の弁護士が参加しました。す。






平成28年度第5回研修会
(平成28年8月30日)

 平成28年8月30日午後6時より、札幌弁護士会館において、介護事故に関して近時発表された論文を題材にして、介護事故をテーマとした平成28年度第5回研修会が行われました。

 介護施設の数、介護施設を利用される利用者数は飛躍的に増加しており、それに伴って介護施設内の事故や介護中の事故も増加し、介護事故訴訟は増加傾向にあります。

 例えば介護施設内で生活されている利用者さんが急変した場合や、介護施設内で転倒してその後治療が遅れた場合など、介護事故は医療事故としての側面があります。近時、法律雑誌に介護事故に関して裁判例の傾向を検討する論文が複数発表されたことから、これらの論文を題材として本研究会でも会員による検討会を行いました。

 介護事故は、病院内での事故と同様に、実際に利用者さんの身に何が起きたのか家族からはわかりにくく、また医学的知見や介護に関する知識が求められる分野です。
 介護事故の分野についても本研究会では研修を行っていきたいと考えています。





平成28年度第4回研修会
(平成28年7月25日)

 平成28年7月25日午後6時より、札幌弁護士会館において、呼吸器科の基礎的な医学的知識の習得をテーマとした平成28年度第4回研修会が行われました。

 研修では、医学生や看護師などの医療関係を志す方々が勉強のために見ているビデオ教材を使って、呼吸器科に関する基礎的な医学的知識に関する勉強会を行いました。


 網羅的な教材ではありませんでしたが、書籍だけではなかなか理解できないところについてビジュアルを通じて感得することができました。

 当研究会では、以前にも医師をお招きして基礎医学講座を実施しており、基礎的な医学的知識についても研修をしてきております。





平成28年度第3回研修会
(平成28年6月28日)

 平成28年6月28日午後5時より、札幌弁護士会館において「肺血栓塞栓症」などを主要なテーマとした、平成28年度第3回研修会が行われました。
 発表担当者は原琢磨会員でした。

 研修会では、発表担当者から、肺血栓塞栓症を中心として循環器、呼吸器に関する基本的な医学的知見の報告を行うとともに、肺血栓塞栓症に関する医療過誤訴訟で問題となりやすい法的論点に関する検討を行いました。
 研修会では医師から、肺血栓塞栓症に関する医学的知見の解説なども受けました。

 皆さんは、 「エコノミークラス症候群」という病気をご存知でしょうか?
 エコノミークラス症候群は、長時間のフライトが原因で生じた急性肺血栓塞栓症のことです。

 肺血栓塞栓症とは、足の静脈などで血流が停滞すると血液の固まり(血栓(けっせん))ができ、その血栓が血流に乗って肺まで運ばれて、肺の血管を詰まらせてしまう病気で、死を招く重大な病気です。
 日本でも1980年代から90年代以降に肺血栓塞栓症の患者が急激に増加し、また先ほどのエコノミークラス症候群が知られるようになったことから、この病気がクローズアップされるようになりました。

 肺血栓塞栓症は、他の病気での治療や手術、入院の際に発症しやすいことが知られています。
 典型的には入院中、ずっと横になっていた患者さんが歩行やトイレのために立った際に血栓が肺まで飛んで発症するといったケースです。このため、肺血栓塞栓症をめぐる訴訟も数多く起きています。肺血栓塞栓症は、胸痛の「キラーディジーズ」の一つとよばれ、胸痛を訴える患者さんがいた場合に医師が決して見落としてはいけないとされている病気です。

 肺血栓塞栓症は予防方法があり、また発症しても早期発見により救命できる病気です。肺血栓塞栓症による死亡事故が起きないように、訴訟を通じて医療機関に対して警鐘を鳴らしていきたいと考えています。





平成28年度第2回研修会
(平成28年3月29日)

 平成28年3月29日午後5時より、札幌弁護士会館にて、脳神経外科の事案を題材とした研修会が行われました。
 発表担当者は、川島英雄弁護士でした。

 今回の事案はまだ訴訟係属中の事案であるため、現時点では詳細な内容は紹介できないのですが、研修会では、発表担当者による脳外科手術の基本的な医学知見の解説、現在の訴訟での中心的争点の紹介や、現在の訴訟方針等についての説明が行なわれました。
 協力医師からも、脳や頭の構造や、脳外科手術の基本事項についての解説がなされました。

 
 今回の研修では、最先端の医療を議論するというよりも、脳や頭蓋骨の解剖、血管の走行など、医学の基本知識を再確認する研修となりました。
 最先端の医療を研究することも必要かもしれませんが、今回のように、医学部生も学ぶような基本事項を再確認するということも、医療事故を取り扱う弁護士にとってはとても大事なことであると再確認しました。


 医療事件を比較的多く取り扱う弁護士といえども、医学的知識は医師にはかないませんが、訴訟案件であれば、訴訟戦略や立証方針については、非常に様々な意見が出され、活発な議論が行われます。
 このような形で意見交換することで、この事案の訴訟進行に有益となるだけでなく、 当研究会メンバーが今後取り扱う事案においても、とても有益な研修となります。
 今後も研究会メンバーで協力し合いながら、研鑽を続けたいと思います。





平成28年度第1回研修会
(平成28年1月26日)


 この研修では、@平成27年11月6日、7日に開催された「第37回医療問題弁護団・研究会全国交流集会」の報告と、A同年10月6日に開催された札幌地方裁判所の医療集中部(民事第2部)との「医療訴訟実務協議会」の報告が行なわれました。

 @の集会は、全国各地の医療問題弁護団・研究会が年に1回一堂に会して開催している集会です。患者側の立場で医療訴訟に関わっている弁護団・研究会が全国から参加し、医療訴訟に関する研究報告や医療講演を実施することで研鑽を積む場となっています。

 平成27年度は大坂で開催され、1日目は「電子カルテの取り扱い上の問題点」や「治験・臨床研究に関する問題点」、「因果関係に関する実務的課題」について各地の弁護団・研究会から研究報告が行なわれました。また、2日目は、大阪地方裁判所の医療集中部の元裁判長である大島裁判官から「因果関係の立証をめぐる実務的課題」と題して講演をいただきました。

 当研究会からも7名の弁護士がこの全国集会に参加してまいりました。今回の研修ではこの全国集会の参加した久保弁護士、神村弁護士が参加報告を行ないました。

 特に因果関係の立証については、患者側で医療訴訟を闘う上では大きな問題となる点であり、この問題についての捉え方は患者側の弁護士と裁判官との間で大きな隔たりが存在します。この全国集会では、その隔たりを埋める意味でも大島裁判官の講演後に質疑応答の時間が設けられましたが、質疑応答を通じてでも埋まらない溝というものがかえって浮き彫りになったことがわかりました。

 今回の研修会の中でもこの点について意見交換を行なうことで、改めて因果関係立証の課題について各自が問題意識を新たにする場となりました。


 Aの協議会は、札幌地方裁判所の医療集中部と札幌弁護士会所属の患者側弁護士、医療側弁護士が集まり、その都度、医療訴訟上の課題について議論を行ない、札幌地方裁判所における医療訴訟の質を向上させようと定期的に開催しています。

 平成27年10月6日の協議会では、医学知見の収集方法のあり方がテーマになっており、ここに参加した大崎弁護士が参加報告を行ないました。

 ここでの医学知見というのは、主には協力医による意見書のことを想定しているのですが、患者側弁護士にとっては、この意見書の取得というのが医療訴訟を進める上での大きなハードルとなっています。特に北海道では、医療訴訟に協力する専門医を見つけるのが非常に困難であり、意見書は当然のように取得できるわけではありません。

 この協議会の中では患者側がどのようにして協力医の意見書などの医学知見の立証資料を収集しているのかという実態を伝えると共に、裁判所に対しては、そもそも協力医の意見書がなくても病院の責任を認めうる事件はあるのであり、その点は裁判所としてしっかり判断するように強く求めるなどの議論を行ないました。

 研修会の中では、この協議会の報告を行なった後に、100%の医学知見を取得することばかりではない現状の中で、どのようにして裁判所に適切な訴訟進行をさせるのか、そのために私たち患者側弁護士としてどのような工夫をすべきであるのかについて議論を行ない、改めて医療訴訟への取り組みを再考する場となりました。





平成27年度全国一斉医療電話相談
(平成27年12月12日)

 平成27年12月12日土曜日に、全国一斉医療電話相談が行われました。
 当研究会からは、7名の弁護士が参加しました。





 

平成27年度第3回研修会
(平成27年11月17日)

 平成27年11月17日午後5時より、札幌市教育文化会館にて「羊水塞栓症」「産科DIC」を中心とした産婦人科の研修会が行われました。
 また、「医療事故調査制度」についての紹介もされました。
 発表担当者は、高橋智弁護士でした。
 研修会では、発表担当者による基本的な産婦人科についての医学知見の解説、関連判例の説明等が行なわれました。
 協力医師により、「羊水塞栓症」の発生機序や診断の際の注意点、治療におけるポイント等が解説されました。ここでの解説はホワイトボードを使った図解も行なわれ、「羊水塞栓症」についての理解を深めました。

1 羊水塞栓症・産科DIC
 羊水水塞栓症という病名になじみは少ないかもしれませんが、一旦発生すると母体が死に至ることもある疾病です。
 羊水塞栓症は、子宮内圧の上昇、卵膜・子宮内膜の裂傷などの条件が揃った場合、比較的大量の羊水が卵膜の裂隙を通って子宮内膜面に露呈した破綻血管から母体血中に流入し、本性を引き起こすと言われています。簡単に説明すると、子宮内の胎児由来の成分(胎便や組織因子)が母体血管に入ると、血液の凝固作用が活性化して、体内に微少血栓をつくり、さらにそれを溶かす作用も活性化して、ついには血液を凝固させる材料が消費されて枯渇され、血液がさらさらで固まらないという状況になるわけです。
 羊水塞栓症は、心肺停止などを主症状とする「心肺虚脱型」と、凝固しない性器出血などの出血を主症状とする「DIC」先行型の大きく二つに分かれていますが、混合型もあります。
 いずれにせよ羊水塞栓症が一旦発生すると、一大事ということになります。
 確定診断には、母子の血液検査が必要ですが、時間がかかります。それゆえ、臨床症状からいかに素早く羊水塞栓症の発症を発症を察知し、対処療法をとるかが大切になります。 

2 医療事故調査制度
 平成27年10月1日からスタートした「医療事故調査制度」についての解説も行なわれ、同制度スタート後の相談業務における注意点など実務的に有益な情報提供が行なわれました。
 この制度の調査対象となる医療事故は、「医療事故(当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるもの)」とされています。
 この事例であると病院側が認定した場合には、医療機関は、遺族に説明を行い、医療事故調査・支援センターに報告します。その後、速やかに院内事故調査が行われます。医療事故調査を行う際には、医療機関は医療事故調査等支援団体に対し、医療事故調査を行うために必要な支援を求めるものとするとされており、原則として外部の医療の専門家の支援を受けながら調査が行われます。
 院内事故調査の終了後、病院は、調査結果を遺族に説明し、医療事故調査・支援センターにも報告します。また、医療機関が「医療事故」として医療事故調査・支援センターに報告した事案について、遺族又は医療機関が医療事故調査・支援センターに調査を依頼した時は、医療事故調査・支援センターが調査を行うことができるとされています。
 そして、調査終了後、医療事故調査・支援センターは、調査結果を医療機関と遺族に報告することになります。
 なお、この制度は10月1日以降の死亡・死産事例ですので、それ以前の事故は対象とされていません。
 本制度で、重要なポイントなのは、調査対象とされるかどうかについて病院側に判断権があり、患者側にはないということです。ですから、患者側としては、死因が不明と思われるときには、病院側にこの制度の対象となると思われる場合には、病院側に働きかけをするという必要が出てくると思います。
 また、ある疾病から死亡という結果も予想される場合には、そこに過失が介在していても、事故調査の対象事故とはならないということです。この点、誤解をしてはいけないと思います。その意味では、調査対象は限定的なものになります。
 院内調査調査がスタートすれば、これとは別に、医療事故調査・支援センターに調査を依頼することも可能となるというのも重要だと思います。
 院内調査は第三者の医師らが関与して行われますので、そこでどれだけ公平性が担保されるのか、病院側の事情を配慮したものになってしまわないかということも問題でしょう。